千葉県退職教員の会への寄稿                          2018.3.30

成田での「戦争法反対署名 事件」を考える                   吉岡秀樹( 秋葉幸一さんを守る会代表)
<事件の概要>
 一昨年の3月、県立高校を退職した秋葉さんは現職時の職務の関係で手元にあった生徒個人情報を使用し、教え子である卒業生335名に戦争法(安保関連法)廃止を求める署名用紙を返信用封筒と共に郵送しました。このことが一般新聞各紙で「不正な情報の持ち出し」などと否定的に大きく報道されました。
結果、秋葉さんは高校側から手元の全データの削除を求められ、県教委からは「勧告」処分を受けました。本人は、当局の対応に不満はありながらも、データの目的外使用の責を認め、その処分を受け入れました。戦争法廃止を求めて秋葉さんと共に活動していた私たちは、このことでこの件は終わったと考えていました。
 しかし、勧告処分の1年後の昨年5月、県教委は秋葉さんの行為が「千葉県個人情報保護条例第63条」に違反するとして千葉県警に刑事告発したのです(この告発の背後に保守県議の県教委への圧力のあったことが後日、判明。しかし当時はわかりませんでした)。直後、成田警察署員5人による家宅捜査と延べ10時間を超える取り調べが行われたのです。
 その後、私たちは「秋葉幸一さんを守る会」を結成し、多くの市民の支援のもとに県教委や千葉地検へ向けて「刑事告発は不当、不起訴を」の活動を進めてきました。結果は、昨年末の千葉地検による「不起訴」処分の判断でした。これは秋葉さんや私たち支援者にとっては勝利であり、7ヶ月もの間、被疑者の立場に置かれてきた秋葉さんが無罪を宣告されたものと同じでした。

<秋葉さんの「不起訴」に県教委やマスコミは> 
 しかし、検察の「不起訴」判断に県教委のとった態度は「コメントを差し控えたい」というものでした。刑事告発とその後の警察による家宅捜索や証拠物件の押収などによって著しく人権侵害され、長期にわたって社会的信用を傷つけられた秋葉さんに対して、謝罪の一言もなかったのです。また「事件」発覚直後、あるいは刑事告発時には、県教委からの誤った情報のもとに一方的に「元高校教師批判記事」を仕立て上げたマスコミの多くは、紙面の片隅で小さく不起訴を伝えただけでした。

<「抗議文」「要請書」も無視>
 秋葉さんと「守る会」は、今年の1月末に県教委に対して「抗議文」と「要請書」を提出しました。公式の場で「不起訴」に対する見解と謝罪表明をするように求めたのです。また、弁護士も同趣旨の「質問書」を届けました。その結果、弁護士には2月末に極めて誠意のない、謝罪の一言もない「回答書」が届きましたが、秋葉さんと「守る会」への返事はありませんでした。
秋葉さんは抗議文の末尾に「残念ながら貴委員会の意思表示が確認されない場合は、貴委員会の不誠実な対応として、広く県民にこのことを公開し、民意を仰ぐことをご了承ください」と書きました。
秋葉さんと「守る会」はHP(文末参照)で「保守系県議の圧力のもとに先例のない刑事告発に至った委員会でのやりとり」と不起訴を求めた活動の一部始終を公開することにしたのです。

<そもそも「条例の『改ざん』」にもとづく刑事告発は不当だった>
 「なぜ、刑事告発をしたのか」という弁護士の質問に、県教委は次の様に答えました。
「業務に関して知り得た個人情報を、自己の不正な利用を図る目的で盗用することを禁じた、千葉県個人情報保護条例第63条に該当するため、告発した」と。
しかし、これには重大な間違いがあります。下線部の正確な文言は「不正な利用」ではなく「不正な利益」なのです。つまり、「自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的」がなければ、処罰されることはないのです。秋葉さんは個人情報を他へ売り渡したりして利益を得たわけではありません。それを使って教え子に署名を依頼した(しかも強制ではなく、政治参加をもとめるものでした)だけです。この行為を「「不正な利益」を図るため」とはとても言えません。県教委はおそらくそのことを理解していて「不正な利益」を「不正な利用」と「改ざん」して、秋葉さんを刑事告発したのです。これは不当だといわざるをえません。

<それでは、県教委は1年も経ってから、なぜ刑事告発したのか>
 県の文教委員会での保守系議員と県教委とのやりとりの情報を県のHPから入手して判りました。県議会文教委員会で、与党議員や右翼系団体に属する議員から県教委は2度にわたり圧力を受けた結果、刑事告発に至ったことです。(県文教委員会の公開文書参照。「守る会」HP)
 この構図は、現在、問題となっている右翼政治家による文科省を通しての学校現場への政治介入や千葉県の実教出版「日本史」教科書採択校への政治介入と同じです。

<保守県議・県教委の企みは失敗したが>
 県教委の企みは失敗しました。しかし、その効果は十分あったのかもしれません。新聞報道を通じて「左翼的な元教員が生徒個人情報を盗用してまで戦争法反対署名を行っている」と県民にイメージさせ、元教員や現職教員をも萎縮させた可能性があるからです。

<そうだとしたら私たちは何をしたらよいのか>
 私は考えます。
 秋葉さんは335名の卒業生へ署名を依頼しました。依頼文の末尾に「18歳選挙権に伴い国政選挙に行かれることを期待します。・・・夢を信じて、自分のために大切な一票を投じて下さい。あなたの幸せはあなた自身の力で勝ち取る事を念じています」と記しました。戦争がひたひたと近づくこの時に、元教師として卒業生の一番大事な時期に「平和な世を創る主権者であってほしい」と呼びかけたのでした。私もそれに触発されて年賀状のやりとりをしていた100名の友人や教え子に署名をお願いしました。私の他にも同様のとりくみをした人が何人もいます。
 今、憲法改悪反対の3000万署名が提起されています。秋葉さんの事件が不起訴になった今、私たちは萎縮しているわけにはいきません。安倍独裁内閣の膿は今、一気に吹き出そうとしています。周りでもそれを感じる人がぐんと増えています。一人でも多くの人に「署名」をお願いしたい。「膿」を出し切り、今の政治を変えたい。これが「成田での戦争法反対署名 事件」にかかわった私の決意です。
 「秋葉幸一さんを守る会」の活動については以下のHPをご覧下さい。
HPアドレス http://www.akiba51.net/                         (成田市・2007年度退職)


報告会・総会                              2018.1.27

県教育委員会に不起訴に対する意思表明と謝罪表明を求める





不起訴処分告知書                           2017.12.22





不起訴を勝ち取る                          2017.12.21

県教委 「現時点でのコメントは差し控える」






成田北高校 校長及び職員へ宛てた手紙                    2017.12.15

  千葉県立成田北高等学校 校長 土屋 俊一 様
                教職員の皆様


 歳末多忙の折 皆さま方におかれましてはご健勝のことと拝察いたします。
 突然のお手紙で失礼します。
 私は千葉県の個人情報保護条例違反で刑事告発されている元成田北高校教員である秋葉幸一さんを守る会代表の吉岡秀樹と申します。
 私たちは秋葉さんの行為は刑事告発対象にはあたらないとの思いで、この8月25日に「秋葉幸一さんを守る会」を結成し、秋葉さんを支援する活動をしています。会員や支援者は現在80名ほどですが、最近、インターネット上にホームページ(HP)も立ち上げました。
この間、新聞報道やHPを通して秋葉さんの「事件」や「守る会」への関心も高まり、支援の輪も広がっています。
 そこで大変不躾なお願いですが、もしも秋葉幸一さんや「守る会」へ向けた郵便物などが貴校に間違って届くようなことがありましたら、お手数で恐縮ですが、差出人に返送したりする前に「守る会」の代表である吉岡秀樹宛にご連絡をいただきたいと思います。
又、すでに、そのような郵便物などが届いておりましたら、それもあわせてお願い申し上げます。

 さて、秋葉さんの現況をお知らせいたします。この10月26日に千葉地方検察庁(以下地検)に書類が送検されました。
その後、私たちは地検に「秋葉さんを起訴するな」の要請書を提出し、同時に、依頼の弁護士からも同趣旨の「意見書」を提出したところです。現在、秋葉さんは地検の取り調べを受けているところです。
 秋葉さんは手元にあった個人情報を目的外に使用した事実は認めていますが、その目的は、個人情報保護条例の意図する「自己や第三者の不正な利益を図る目的」に相当するとはとても考えられません。それは秋葉さんが生徒に宛てた署名依頼文の末尾の一文「18歳選挙権に伴い国政選挙に行かれることを期待します。・・・夢を信じて、自分のために大切な一票を投じてください。あなたの幸せはあなた自身の力で勝ち取ることを念じています」を読めば明らかです。自分自身のために政治に関心を持って欲しいという秋葉さんの、教え子に向けた思いのこもった一文です。
 また、なぜ秋葉さんのパソコンに生徒情報があったのかは、学校関係者ならだれでも理解できることではないでしょうか。秋葉さんは退職までの4年間、パソコンで生徒情報を管理するシステムの構築を担当(これは校務分掌上のもの)し、退職後も成田北高校からのシステムへの問い合わせに対応する必要があった為そのまま所持していたものです。
一部報道にある「無断持ち出し」とか「不正持ち出し」には全くあたらないと思います。事実、秋葉さんは退職後も何度か成田北高校に出向き、現職教員の相談にのっています。そのことは管理職である当時の教頭先生もご存知のことだったはずです。
 私たちは、昨年の5月20日付の勧告処分でこの問題はすっかり決着がついていたと考えていましたが、その1年後に、県教委は秋葉さんを成田警察署に刑事告発し、現在に至っているわけです。
秋葉さんの行為は、名簿の目的外使用の問題はありますが、個々の教え子に「平和」や「選挙を通しての政治」を考えさせる大事な機会を提供したものであり、刑事告発されるような内容ではありません。

 世間では「若者の政治離れ」が言われています。そのことが一部の大人の政治支配へとつながり、再びあの忌まわしい戦争へ突き進む結果になるのではないかと私たちは危惧しています。高校生には平和な未来や社会を作る役割を担って欲しいのです。そして、先生方にはそれを支えて欲しいのです。今回の秋葉さんの行為は、元教師として、そのことを訴えたものにほかならないと私たちは確信しています。

 ここ2,3日急に冷え込んで参りました。どうか皆さま方におかれましては、十分ご自愛されて、お過ごし下さい。



ブロッコリー活躍                         2017.11月~12月
会員の大木さんの畑のプロっこリーが、守る会を応援した。






焼け跡から 成田公演                           2017.12.7
観客総数540名。ご協力、ありがとうございました。






秋葉幸一さんをめぐるこれまでの経過とこれからについて           2017.10.7
                        秋葉幸一さんを守る会 代表 吉岡秀樹

 2016年3月、秋葉幸一さんは千葉県立成田北高校教員を退職して丁度一年が経とうとしていました。前年の9月に「安全保障関連法」が強行採決された様子をテレビで見て、日本の民主主義が脅かされつつある危機感を覚え、その廃案に向けての運動に参画するようになりました。そして、自宅のパソコン内に残っていた卒業生のデータから、自分が直接かかわっていた335人の教え子宛てに、安保関連法廃止の署名への協力を依頼しました。
 18歳選挙権が適用される参議院選挙も近づいていた時期です。秋葉さんは、卒業生に宛てた署名依頼文(別紙1p参照)の末尾に「18歳選挙権に伴い国政選挙に行かれることを期待します。・・・・夢を信じて、自分のために大切な一票を投じて下さい。あなたの幸せはあなた自身の力で勝ち取ることを念じています」と記しています。自分自身のために政治に関心を持って欲しいという秋葉さんの、教え子へ向けた思いのこもった一文です。

 これに対して、千葉県教育委員会(県教委)は1年以上も経った2017年5月に秋葉さんの行為が千葉県の個人情報保護条例(63条)に違反するとして刑事告発しました(新聞各紙の報道は別紙3p、残念ながらいずれの新聞社からも本人への取材はなかった)。しかし、秋葉さんは昨年の5月20日付で既に処分(勧告)を受けています(別紙2p)
 また、当人は個人情報を目的外に使用した事については、そのことを認め、その際パソコンのデータはすべて削除しました。当人はもちろん、私達も、この勧告処分ですっかり決着がついていたと考えていました。
 しかし、その1年後になって、県教委は秋葉さんを成田警察署に刑事告発し、この6月29日の早朝、警察官5人が秋葉さん宅に踏み込み、パソコン1台と関連ファイル1冊を押収していったのです(押収されたものは後日、返却されましたが、パソコンは一部不具合のままでした)。その後、秋葉さんは、計4回、延べ10時間を超える取り調べを受けました。
 この間、秋葉さんは警察からの事情聴取に全面的に協力していますが、昨年の秋葉さんの行為は、秋葉さん本人が一人ひとりの教え子に対して安全保障関連法の廃止署名をお願いしたものですから、これは憲法第19条「思想及び良心の自由」および第21条「集会・結社・表現の自由、通信の秘密」により保障されています。また、個人情報保護条例の意図する「自己や第三者の不正な利益を図る目的」に相当するとは考えられません。
 さらに、秋葉さんのパソコンにあった生徒情報は、秋葉さんが退職までの4年間、パソコンで生徒情報を管理するシステムの構築を担当していた校務分掌上のものであり、退職後も高校からのシステムヘの問い合わせに対応する必要があった為そのまま所持していたものです(別紙4p「個人情報が家にあった訳」参照)
 これまで述べてきましたように、今回の秋葉さんの行為は生徒情報の目的外使用については行政処分(勧告)を、既に受けていますから、その上に、新たに罰則を伴う刑事事件とすることは、その妥当性を欠いております。
 今後は、千葉地方検察庁での取り調べがあり、そこで検察庁の判断が下されます。私たちはこれまでの理由から、まずは検察庁に対して「秋葉幸一さんを起訴しない」ことを求めて要請書を提出します。仮に起訴された場合は裁判で無罪を勝ち取るために活動します。
 そのために8月25日に「秋葉幸一さんを守る会」を30人の皆さんの参加で発足させました。その報道が9月6日に東京新聞に掲載され、9月13日には「守る会」として記者会見。朝日、東京、読売、千葉日報、共同通信、時事通信の6社の参加でした。翌日、朝日新聞と千葉日報に記事が掲載。東京新聞、千葉日報の記事は「秋葉さんの手元になぜ情報があったのか」については不正確な記述でしたが、全体としては秋葉さんや「守る会」の思いを誠実にまとめていました。ただ、朝日新聞の記事は読者が誤解する内容の記述で、残念でした。担当記者には当日、電話でそのことを質しました。
 その後、新聞掲載の好意的な反応が数件寄せられています。私たちはこれからは、会員を増やしながら、さらに広く訴えていく予定です。

 10月7日現在、秋葉さんへの千葉地検からの動きはありません。会員は50名を超えました。



発足集会                               2017.8.25

平成29年5月24日、千葉県教育委員会は本人を刑事告発した。
成田市で、これに反対する市民団体が立ち上がった。






勧告書                              2016.5.20

平成28年3月22日、署名用紙と手紙を郵送後、
千葉県教育委員会は4月初旬、本人へ事情聴取を行い、
以下の勧告書を本人宛に郵送した。
本人は個人情報の目的外使用を認め、反省し、これを受諾した。